過払い金返還請求と不遡及
学生ローンや消費者金融業界は、設立から平成17年まで、その繁栄は隆盛を極めていた。
武富士は一代で貸し付け残高が1兆円を超えるにまで急成長した。
テレビコマーシャルもおなじみとなり、店舗やATMの拡大は日本全国にまで広がった。
学生ローンや武富士などは、1960年代に設立され、当時の高金利バブルが貸金業者の急成長の要因であった。
しかし、急成長の要因であった高金利が、後に自分の首を絞める事になろうとは誰も予想していなかっただろう。
平成18年1月、最高裁でみなし弁済を事実上認めない判決を下した。
その結果、利息制限法を超えて支払った利息分については、過去に遡って返還請求をすることが可能となった。
これが過払い金返還請求である。
貸金業者の設立当時は、実質年率が実に109.5%である。
その後、貸金業法の改正により、次のように上限金利が改正される。
1983年 73.0%
1986年 54.75%
1991年 40.004%
2000年 29.20%
2007年 20.0%
上図でもわかるように、2007年以前に貸し付けた契約は、ほとんど全てが過払い対象となる。
その結果、最盛期には3万社を優に超えていた貸金業者の数は、現在では3千社にも満たない数字にまで激減した。
特に大きな打撃を受けたのが武富士等の大手消費者金融である。
大手ノンバンクの顧客は何十年にも渡る長期利用者が多い。
その為、過払い金額も相当なものとなる。
武富士が倒産に追い込まれたのは無理もない話だ。
1兆円の資産が、全て過払い金返還請求で溶けたのである。
一方、学生ローンの利用者は、短期の借り入れがメインである為、比較的ダメージは軽傷で済んだ。
学生ローンのほとんどに「過払い倒産」が見られなかったのはこの為である。
●三権分立を無視した裁判官の傲慢判決
過払い金返還請求の大きな問題点は、遡及効を認めてしまったところにある。
それも一方的にだ。
通常、法律というものは、改正前の事象に関しては遡及しないのが一般的だ。
例えば、飲酒運転による交通事故が相次ぎ、罪を重くする法改正がなされたが、そのきっかけとなった2000年の神奈川県座間市で起きた交通事故死事件がある。
事故を起こした運転手は飲酒運転の上、無免許であった。
2人の命を奪いながらも、5年以下の禁固刑・または50万円以下の罰金というあまりにも軽すぎる判決が下された。
この事件を機に、危険運転致死傷罪が改正されたわけだが、その以前の悪質な飲酒運転事故に関しては適用されていない。
法律の不遡及の原則に基づくものだ。
しかし、過払い金に関しては、なぜか過去に遡って利息制限法で引き直す事が既成事実となってしまっている。
これは明らかに法の不遡及に反するのではないか?
しかも、当時は当時の貸金業法に則り運営されていた。
貸金業者に従ずる者は、誰もが健全な営業であったことを疑う者はいないし、法律も認めていた。
ところが、平成18年の判決以降、過去の貸金業法は間違いであったから、取りすぎた利息は返還せよという話はあまりにも理にかなわない。
では、当時支払った法人税などの税金は還付されるのかといえばそうではない。
実際、この件で裁判を起こした貸金業者もあるが、訴えが認められることはなかった。
誰がどう見ても理不尽である。
一方は過去に遡って返せと言い、一方は「過去の分は知らないよ」である。
こんなバカげた話で倒産にまで追い込まれた武富士は、さぞ無念であろう。
しかも、貸金業者は「悪意の受益者」とされ、過払い金だけでなくそれに伴う利息と慰謝料まで請求される有様だ。
正に法律を悪用したカツアゲである。
余談だが、不動産業界においてはアパートの更新料が不法だとして、更新料の返還請求裁判が各地で起こされた。
結果は更新料は合法という事で落ち着いたようだが、取れるものはペンペン草さえ残さず、根こそぎ取ろうとする法曹界のありかたに、大いなる疑問を抱かずにはいられない今日この頃である。